相続の遺産分割方法|現物分割と換価分割と代償分割

【遺産分割とは何か?】

相続対策において、最初に検討すべきことは、「遺産分割」といっても過言ではありません。
民法において、相続人が複数いるときは、相続財産は共有に属するものとされています。しかし、相続財産が共有に属している状態だと、各相続人が各資産を自由に使用収益することができませんから、望ましい状態であるとはいえません。それゆえ、遺産分割手続きを行うことによって共有状態を解消して、各相続財産を各相続人に個別に帰属させることが必要です。
民法では、「法定相続分」を定め、複数の相続人がその割合に応じて資産を承継するものとしています。しかし、遺産分割は、相続人による協議によることもできるとされておりますから、必ずしも法定相続割合によって遺産分割を行う必要はありません。このため、遺産分割をめぐる相続人間の争いが発生する可能性が出てくるわけです。

【遺産分割できなければ納税できず、相続人間のトラブルも発生】

遺産分割ができなければ、相続税の納税はできません。
相続税は、相続開始日から10日以内に現金で納付しなければならないことになっています。
遺産分割協議がまとまらなければ、預金の引き出しもできません。そのため、相続人に固有の現金や現金化できる資産がなければ、納税が極めて困難となります。場合によっては、高い利息を支払って分割納付する「延納」を選択しなければなりません。《不動産の売却・名義変更もできません》
また、遺産分割が決まらなければ株式や不動産を売却することはできません。株式や不動産の名義変更もできないわけです。
売却できませんから、現金化することもできず、結局自由に処分することもできません。
もし、相続人の中に一人でも遺産分割協議書に押印しない人がいれば、資産は処分することができなくなるわけです。さらに、遺産分割がまとまらない場合、不動産の名義変更登記ができないため、不動産の売却もできなくなります。現金が不足し、不動産の売却で納税資金をまかなおうとしていた場合、不動産が予定どおりに売却できなければ相続税の納付ができなくなる可能性が出てきます。《相続人の生活資金が枯渇します》
そして、遺産分割がまとまらない場合、相続人の生活費が枯渇してしまう事態が生じる可能性があります。
相続が発生すると同時に金融機関は被相続人の資産をすべて凍結しますから、遺産分割がまとまらない限り、預金を引き出すこともできません。
このような場合、もし手元現金や自分名義の預金がなければ、生活費が足りなくなってしまいます。《相続人同士の人間関係のトラブル》
何よりも重要な問題は、遺産分割がまとまらずに相続人間で裁判になるリスクがあることです。
訴訟に発展すれば、多額の弁護士費用が必要になることに加えて、数年間にわたり、預金の引き出しや不動産の売却ができなくなり、資金繰りに困難が生じることになります。
また、裁判の長期化によって人間関係が悪化してしまうケースも多くあります。その結果、すべての相続人に大きな精神的ストレスをもたらしてしまうことになります。

 

【遺産分割できなければ相続税を多く納税することになる】

 遺産分割がまとまらない場合、相続税の申告が不利になるリスクがあります。

 

相続税の申告期限は、相続開始後10ヶ月以内と決められています。
この申告期限までに遺産分割がまとまらないと特例の適用を受けることができなくなるためです。

遺産が未分割だと、下記の特例の適用を受けることができません。

《配偶者の税額軽減》
配偶者が取得する相続財産が法定相続分相当額または1億6000万円まで課税されないとする制度)
配偶者の税額軽減を適用できるならば、子供がいる配偶者の法定相続分または相続財産の2分の1まで相続税は課税されません。
よって、相続人全員の相続財産がどんなに多くても、配偶者の税額軽減を適用することさえできれば、納税額は大幅に軽減されます。
未分割のままの場合には、配偶者の税額軽減を適用した場合と比べて、2倍以上の納税額となることもあります。

 

《小規模宅地等の評価減の特例》
これは、個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、限度面積までの部分については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額する、という特例です。
この特例を受けるためには、遺産分割に際して、配偶者の居住用の土地(330㎡まで)を相続することを確定させる必要があります。
そうすれば、土地の80%評価減が使えるため、仮に、1億円の土地(330㎡未満)の場合、課税価格に算入すべき金額は、2000万円でいいということになります。
遺産分割が未確定のままだと、1億円の評価額が相続財産に算入されることになりますから、相続税は数千万円多額になります。

 

【遺産分割の基準】

 民法では、遺産の分割は、「遺産に属する物または権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と定められています。
実際に相続が発生した場合には、相続人はどうすればいいのかわからないのが通常です。 民法の基準に従えば、不動産経営を継いだ子に不動産を、会社経営を引き継いだ子に事業用資産を相続させることが合理的ということになりますが、相続人が複数いる場合には、各自が法定相続分を有しています。相続人全員に各自の法定相続分を満足するように遺産を分割しようとすると、不動産経営を継いだ相続人に不動産を、会社経営を引き継いだ相続人に事業用資産を相続させることができない場合が多いはずです。
そこで、相続人全員がその自由意思で合意するのであれば、法定相続分に従わず、どのように遺産分割してもよい、とされています。したがって、相続人間で話し合いがまとまるのであれば、不動産経営を継いだ相続人には不動産を、会社経営を引き継いだ相続人には事業用資産を相続させ、結果として他の相続人はその分、相続分が法定相続分よりも少なくなる遺産分割協議であっても、全員一致すれば問題なく行えます。
しかし、最近では兄弟姉妹であっても、全員平等であることを求める傾向が強く、このような遺産分割協議の成立が非常に難しくなっています。

【遺産分割の方法 現物分割 換価分割 代償分割】

 遺産分割の方法は3つあります。

《現物分割》
相続財産を、実際の物で分割する方法です。
たとえば、不動産は相続人Aに、会社株式は相続人Bに相続させるという方法です。

《換価分割》
現物での分割が困難である相続財産の場合には、競売や任意売却により換価分割し、売却代金を相続人が受け取る、という方法です。
しかし、不動産や会社株式、事業用財産については、売却して承継ができません。この方法によることは不動産や会社の解体につながってしまうというリスクがあります。

《代償分割》
特定の相続人が相続分を超える価格の現物を取得し、他の相続人に対して代償金を支払う、という方法です。
不動産や会社の承継の場合には、後継者がこれらの現物を取得し、他の相続人に相続分に見合う代償金を支払う方法が取られることが少なくありません。
あとは、この代償金を後継者がどうやって準備するかということです。換金できない先祖から引き継いだ不動産や自社株式だけの場合には、代償金や相続税を支払うことができない可能性もあります。

※代償分割の注意点

代償分割で、資産を相続した者は、他の相続人に対して債務を負うことになるため、資金の準備が必要になります。この点、代償分割のために相続した不動産を売却しようとしても、遺産が未分割の状況では、土地を売却する際の、「相続税の取得費加算の特例」が利用できないため、注意が必要です。

《相続税の取得費加算の特例》
相続税の取得費加算の特例とは、相続した土地や株式を相続後3年10ヶ月以内に売却した場合、その売却益に対する譲渡益を計算するうえで、すでに課税された相続税のうち土地や株式に対応する金額を取得費に加算するものです。

これによって譲渡所得が少なくなり、所得税の負担を減少させることができます。

代償分割を前提として遺産分割協議が進んだら、「相続税の取得費加算の特例」を使って土地の売却も検討しましょう。

遺産は、遺言書がある場合には、遺留分(いりゅうぶん)を侵さない限り遺言どおりに分割されます。遺言書がない場合には、相続人全員が協議して分け方を決めます。相続人の間で争いになり、遺産分割協議が調(ととの)わないときや相続人の中に行方不明者があって協議できないときは、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることができます。調停が不調に終わったときは、審判の手続きによって分割することになります。遺産の分割ができない場合でも、相続税の申告書の提出期限までに申告・納付をしなければなりません。

Q.私の父は、事業をしていましたが多額の借金を残して亡くなりました。私は父の借金を相続したくないのですが、どうすればいいのでしょうか?

A.自営業をされている方からの相談でした。相続財産が明らかに債務超過であれば、相続の放棄をすることができます。しかし、不動産等の資産・債務の内容が不明確な場合は、その被相続人の資産の範囲で債務を弁済することを条件に相続(限定承認)することもできます。いずれにしても相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に手続きをしなければなりません。

 

 

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