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このページでは「事業承継のための自社株対策」、「生命保険を活用した自社株評価の引き下げ対策」などについて説明していきます。
自社株式対策の必要性
1.はじめに
中小企業の数は、2014年では381万社(1999年は484万社)と、15年で約100万社減少し、さらに人手不足感も強まる一方でありますが、依然として日本全体の企業数の99.7%、従業員数の約70%を中小企業が占めています。
そんな中、経営者の平均年齢及び平均引退年齢は上昇しており、多くの中小企業では事業承継の準備が間に合っていない状況にあります。
具体的な数値で見ますと、50代の経営者の企業で約7割、60代で約6割、70代、80代でさえも、半数以上の企業で事業承継の準備は完了していません。さらに後継者について、すでに決まっている企業が全体の12.4%のみで、21.8%は未定、50%が現在の代で廃業予定となっており、多くの企業で事業承継に課題を抱えている現状がわかります。
その課題にはもちろん後継者不在や経営不安等の企業内部のものもありますが、中小企業があげる事業承継を行う上での課題には、「自社株式に係る相続税や贈与税の負担」の財務面の課題が大きく壁となっています。
2.中小企業と自社株式にかかる相続税
中小企業のほとんどは、同族会社です。同族会社とは株式を公開していない会社のことです。
株主が、父・母・長男・次男・長女・叔父、、、と血縁者ばかりの会社のことです。同族会社は、株主も役員も一族で支配している場合がほとんどです。そして同族会社の株式は非上場の取引相場のない株式(以下「自社株式」という)で、この自社株式のほとんどを創業者が保有しています。
創業者が亡くなり、相続が発生した場合に自社株式も相続財産に含まれます。
同族会社の株式は、換金性が低いにもかかわらず、評価額は高いのが一般的です。予想もしていなかったぐらいの高い評価として相続財産が計算されてしまいます。
例えば、1株500円の株式を20,000株発行して、資本金1,000万円の会社を設立しました。
そして順調に業績を伸ばして、40年後に1株30,000円になっていたら、、、自社株式の評価は、6億円です。相続財産は高額になってしまいます。
相続税は原則として事前に現金を準備して納税しなければなりませんから、相続財産の中に十分な金融資産がない場合には、株式を売却して納税資金を作る必要があります。しかし、非上場である同族会社の株式を売却できる(買い取ってもらえる)相手は、親族以外にありません。たとえ売却が可能であったとしても、支配権を手放すことになってしまいます。
同族会社の最も大きな課題、創業社長の最後の業務は自社株対策といっても過言ではありません。
自社株対策は、創業者が生前中で、しかもできるだけ早い段階に会社の安定と将来の発展のために取り組まなければなりません。「自社株対策」は、将来必ず訪れる相続の対策であるといえます。
3.自社株対策(株価引き下げ)の必要性
非上場である同族会社の株式の評価額は、高くなってしまうのが一般的であることは、上述のとおりです。
自社株対策とは、相続税評価額を引き下げることをいいますが、なぜ株価を下げる必要があるのでしょうか?
その理由は、2つあります。
- 事業を承継する後継者は、創業社長のご子息であることがほとんどで、年齢的に見ても高額な株式の買取資金を準備することができない。その負担をなるべく少なくするために株価の引き下げが必要。
- 相続税の税負担を最小限にとどめるために株価の引き下げが必要。
4.自社株式の評価方法
非上場で取引相場のない株式は、税法上の規定によって評価され、評価方法には、原則的評価方法と例外的評価方法があります。
原則的評価方法は、会社の純資産価額や利益状況をもとに評価する方法で、業績のよい会社なら、とても高く算定されます。一方、例外的な評価方法は、少数株主用の評価方法で、配当期待権しか評価しませんので、ほとんどの場合に、とても低い評価額となります。
先代社長から後継者である息子が、自社株式を承継するときには、ほとんどの場合、『原則的評価方法』によって評価されます。
この原則的評価方法は、次の算式によって計算されます。
原則的評価方法 = 類似業種比準価額×(1-L)+純資産価額×L
類似業種比準価額の計算には、会社の一株当たりの利益、一株当たりの配当、一株当たりの純資産などが考慮されます。
そして、類似業種比準価額と純資産価額の二つの計算方式によって自社株式の評価額とします。
Lは、会社規模に応じて変動します。
会社規模は、従業員数、取引金額、総資産価額の多寡に応じて、大会社、中会社、小会社に区分します。
会社の規模が大きければ大きいほど、Lは小さくなり、類似業種比準価額の影響する割合が高くなります。
毎期決算後には株価評価をして、現在の株価を把握しておくことも大切です。
自社株評価を下げる対策
自社株式の評価は、上述のとおり、「類似業種比準価額」と「純資産価額」の2つを用いて計算しますので、
法人の節税対策が自社株評価対策につながります。
1.低い評価方式の選択
- 配当還元方式による評価方式を選定する
- 会社の規模区分を変更する
- 特定の評価会社外し
2.純資産価額の引き下げ
純資産価額を引き下げることは、容易ではありません。過去の経営努力によって蓄積された剰余金を簡単に減少させることは困難です。方法としては、「未使用の土地の活用・資産の組み換え」が考えられます。
つまり、会社が所有する未使用の土地があれば、賃貸ビルを建設して貸家建付地の評価減の適用により純資産価額を引き下げることはできます。
3.類似業種比準価額の引き下げ
類似業種比準価額とは、評価会社と類似業種を営む上場会社の平均株価を基にして、これに「配当」、「利益」、「純資産」の3つの要素を加味して評価する方法です。
したがって、配当、利益、純資産の要素を引き下げることにより株価は低くなります。
この3つの中で最も容易に引き下げることができて、他の要素の3倍の数値が評価額に反映されるのが「利益」です。
法人契約の生命保険の加入により、支払保険料の全部または一部が損金の額に算入される場合には評価会社の利益金額が少なくなるため、1株当たりの利益金額を下げることができます。1株当たりの利益金額は、他の比準要素(配当や純資産価額)の3倍の数値が評価額に反映されることから、最も評価額の引き下げに貢献します。
利益金額の数値を引き下げるためには、会社の利益をできるだけ低く抑えることがポイントになります。
したがって、結局は法人税の節税がそのまま自社株式の評価にも影響することになります。
ただし、少しぐらいの節税では、自社株評価を引き下げることはできませんから、大きく対策をする必要があります。
そこで、生命保険の活用が有効になってくるわけです。
生命保険を活用した自社株対策
1.生命保険の活用メリット
事業承継の場面においては、後継者が相続する主たる財産が換金性に乏しい非上場株式等であることが多く、納税資金の手当をしておくことが重要です。
また、中小企業では被相続人(先代経営者)が自らの財産を会社経営に費やしているケースが多く、事業用資産の相続財産のうちに占める割合が大きいのも特徴です。
このようなケースでは、事業を承継しない非後継者に行き渡る相続財産が不足し、相続人の間で紛争を引き起こす原因となります。しかし、会社を安定的に発展させるためには、会社の経営権は後継者に集中させることが重要であり、相続による自社株式の分散は絶対に避けなければなりません。
2.法人の生命保険で非上場株式を相続する場合の資金を準備
自社株式を後継者に集中して相続させた場合、後継者の相続税の納税資金のほかに非後継者に対する代償金の手当が必要となります。このような場合には、生命保険を活用し後継者の資金手当をしておくことが効果的です。後継者の資金手当という面では預貯金を相続財産として残す方法も考えられますが、死亡保険金は本来の相続財産ではないため、遺産分割協議の対象となりません。
したがって、死亡保険金の受取人を後継者に指定することにより、相続紛争がある場合でも確実に後継者の資金手当をすることが可能となります。
また、預貯金の場合には必要額を得るために積み立てを行うには長期間を要することとなり、結果として相続開始時までに必要額を得られないことも考えられます。これに対して、生命保険は保険加入時から必要とする保障額を確保することが可能です。また、預貯金は積立額がそのまま相続税の課税対象となるのに対して、生命保険には500万円×法定相続人の数の非課税枠がありますから、相続税の計算上も有利となります。
非上場株式は上場株式と異なり一般的には流通していないので、換金性の低い財産です。また、会社の経営権そのものであるため容易に第三者へ譲渡することはできません。
相続財産のうちに非上場株式の占める割合が高い場合には、非上場株式自体は基本的に換金できないため、相続対策としては納税資金となる現金を別途用意しておくことが必要になります。また、経営権が第三者へ渡らずに非上場株式を換金する方法として、発行会社へ自己株式として譲渡する方法も考えられますが、この場合にも発行会社側で自己株式の買い取り資金が必要となります。
相続対策として相続税の納税資金を準備しておく必要があり、その手段として生命保険の活用は有効となります。
3.生命保険を活用した自社株評価対策とその後の相続対策の手順
(1)法人契約の生命保険に加入
契約者 = 法人
被保険者 = 後継者
受取人 = 法人
※支払保険料の1/2は、経費計上 ⇒ 利益を圧縮
※残りの1/2は、資産計上 ⇒ 将来の退職金の準備金を積み立てておく。
(2)退職時に退職金の支払い
※保険を解約し、退職金を支給し、利益を大幅に圧縮する。
(3)受け取った退職金で終身保険に加入
契約者 = 退職者(将来の被相続人)
被保険者 = 退職者(将来の被相続人)
受取人 = 相続人
※相続税の非課税枠(500万円×法定相続人)を活用。
※相続がいつ発生するかわからないため、定期保険ではなく終身保険を選択する。
⇒高齢であっても加入が可能な「一時払終身保険」や「一時払年金保険」も検討する。
※相続税の納税資金は最低限確保しておく。
※二次相続のことも考えると、受取人は契約者の配偶者ではなく、子供がよい。
※生命保険金は遺産分割協議の対象外。特定の相続人に確実に渡すことが可能。
⇒預貯金で相続する場合には、遺産分割協議がまとまるまで預金が凍結されますが、生命保険は短時間で現金化が可能です。
4.事業承継や相続に生命保険が強いと言われる理由
(1)確実に「現金」を得ることができる
生命保険は加入した時(契約締結時)からその保険金額の支払いが保証されています。保険事故があれば間違いなく受取人(相続人)が現金を手にすることができます。
(2)相続財産の分割に有効
相続人が複数いるものの相続財産が分割不能な不動産のみというような場合も、事前に特定の相続人を受取人とする保険に加入することによって、「争族」を避ける手段となります。
(3)いつでも現金化が可能
生命保険はいつでも解約ができ、決められた現金を手にすることができます。
例えば不動産等は通常、売却を急げば価格を下げて売らざるを得ないものとなりがちですが、生命保険はそういったリスクがまったくありません。
(4)今すぐできる相続事業承継対策
相続事業承継対策は、時間をかけて長期間にわたり行うものです。生命保険に加入し、一定の保障を確実なものとして、その上で次に何をすればよいか検討する時間を確保することができます。
(5)リスクを明確に把握できる
相続事業承継対策で、アパートや賃貸物件等を建築することがありますが、その場合に考えられるリスクには、建築費用、取得保有にかかる税金、入居者の確保、賃料の変動、借入金及び利息の返済、物件が老朽化した際の修繕費、などが考えられます。
生命保険加入は保障の額と、保障を得るための保険料とのバランスを考えるだけで、収益物件のようなリスクがありません。
生命保険の選び方と見直しの必要性
1.生命保険に加入する目的を明確化
経営者のみなさまに現在加入されている生命保険についてヒアリングを致しますが、驚くべきことは経営者自身が自社で加入されている保険についてほとんど何も知らないケースが多いということです。
法人で生命保険に加入された経緯を聞くと、保険会社の営業担当者に勧められるままに加入されていることがほとんどです。会社の将来を見据えたものになっていないケースがほとんどなのです。
法人で生命保険に加入する際に、会社の決算書や経営状況、将来の見通しを考慮していない場合が多いからです。保険営業担当者は、それらの情報なしで、保険という商品を提案しているのです。
担当者が何回も訪問してきてくれたから、いい人だから、という理由で加入されている場合が多いのです。
会社経営は、経営者の思想によって成り立っています。したがって、会社のビジョンが変われば、それに沿って経営も変わります。経営環境が変われば、お金の使い方も変わってきます。ですので、生命保険に加入した時点での経営状況と現在の状況が異なれば、当然保険の見直しも必要になってきます。
生命保険の加入・見直しを行う前にまず、「保険の加入目的を明確にする」ことがとても重要です。
ムダな生命保険に加入している会社のほとんどは加入目的が曖昧で勧められるがままに保険に加入してしまっています。
会社のビジョン、現在置かれている環境を考慮し、「保障」・「法人税の繰延」・「将来の退職金準備」・「自社株評価引き下げ」の観点から保険加入を検討する必要があるのです。
2.複数の生命保険会社を比較検討し、目的別に最も適したものを選択
節税対策の目的や退職金準備目的のために法人契約で生命保険に加入することはごく一般的でオーソドックスな方法です。
ところが担当の税理士から生命保険加入は好ましくないと指摘されたり、加入するにしても税理士から紹介された生命保険会社を強く勧められたりして、目的と異なる保険契約をしてしまっていることもしばしば見受けられます。
自社株対策のために生命保険を活用する際には、月々の保険料や将来の保障額が高額なものとなります。
法人が契約者になって退職金の準備のためのもの、個人が契約者になって将来の相続税納税資金準備のもの、一般的な医療保険、それぞれの目的によって複数の生命保険会社を比較検討することが重要です。
知り合いの営業担当者から「この商品はオススメですから、入っておいたほうがいいですよ」と勧められて加入されているケースもありますが、「他の保険の何と比べて、どのくらいオススメなのか」明確な理由がなければ、加入する理由もありません。
また、事業承継のための生命保険活用は、事業を承継される後継者様を中心に保障を手厚くしておく必要があります。そのため、保険金額が高額になります。それにも関わらず、代表者や後継者以外に社員の福利厚生になる生命保険に加入されている場合もあります。
【生命保険会社による支払保険料の比較】
契約時年齢 | 33歳 |
契約者 | 法人 |
保険種類 | 長期定期保険 |
会社 | S生命 | T生命 | A生命 | N生命 | S生命とN生命の比較 | |
保険料 | 年間 | 1,569,200 | 1,645,600 | 1,650,700 | 1,732,400 | |
経過年 | 年齢 | |||||
1年 | 33歳 | 1,569,200 | 1,645,600 | 1,650,700 | 1,732,400 | 163,200 |
5年 | 38歳 | 7,846,000 | 8,228,000 | 8,253,500 | 8,662,000 | 816,000 |
10年 | 43歳 | 15,692,000 | 16,456,000 | 16,507,000 | 17,324,000 | 1,632,000 |
15年 | 48歳 | 23,538,000 | 24,684,000 | 24,760,500 | 25,986,000 | 2,448,000 |
20年 | 53歳 | 31,384,000 | 32,912,000 | 33,014,000 | 34,648,000 | 3,264,000 |
25年 | 58歳 | 39,230,000 | 41,140,000 | 41,267,500 | 43,310,000 | 4,080,000 |
30年 | 63歳 | 47,076,000 | 49,368,000 | 49,521,000 | 51,972,000 | 4,896,000 |
上記の比較表より、保険会社によって支払保険料の金額に差があることがわかります。もちろんのことですが、その支払保険料累計額の差額は経過年数が経つほど大きくなります。
目的を達成することが最も大切ですので、保険料の安い高いで甲乙を付けられるものではありませんが、同じ保険金額でも保険会社により保険料の金額は異なりますので検討の余地はあります。
3.生命保険自己チェック表
生命保険に関するチェックリストです。該当項目が多い場合は見直しの必要があります。
1 | 生命保険について仕組みを理解できていない。 |
2 | 生命保険営業担当者が親戚や友人であるため加入した。 |
3 | 会社が赤字だが保険積立金が計上されている。 |
4 | 現在加入している生命保険の内容が目的に合っているか知らない。 |
5 | 必要保障額を計算したことがない。 |
6 | 役員の退職金の準備ができていない。 |
7 | 解約返戻金のピーク時を知らない。 |
8 | 担当税理士が保険の代理店であるため、勧められた一社の生命保険に加入している。 |
9 | 相続税の生命保険金非課税枠を確保できていない。 |
10 | 目的別によって、保険を分散加入できていない。 |
4.おわりに
事業承継は、中小企業の経営者が抱える最も大きな課題といっても過言ではありません。
その中でも「自社株対策」という問題を抱える企業様も少なくありません。自社株対策・事業承継対策のための生命保険について記載致しました。
商品サービスの内容や金額も保険会社によって異なりますから、必ず比較検討することが重要です。
冒頭でも述べましたが、中小企業があげる事業承継を行う上での課題には、「自社株式に係る相続税や贈与税の負担」の財務面の課題が大きく壁となっています。
また、自社株対策・事業承継対策以外にも、法人での生命保険加入は必要です。
法人での加入は、個人で加入する場合よりも有利であることも多く、経営のリスクに備えるためにも必要不可欠です。
活用できる方法は上手く活用し、会社の発展と存続、そして次世代へのバトンタッチをスムーズに行えるようにしましょう。